別所線沿線撮り歩き / 後編

中塩田駅~別所温泉駅

 

前回に続いて別所線沿線撮り歩きの後編です。今回は中塩田駅から終点の別所温泉駅まで。

 

中塩田駅~塩田町駅

中塩田駅~塩田町駅①

中塩田駅を出てからしばらくは住宅地の間を進みます。隣を並走する道路と線路の路盤とがほとんど同じ高さなので、なんだか併用軌道区間のようにも見えてしまうのが楽しいですね

中塩田駅~塩田町駅②

途中にある踏切。お寺の裏側へと通じていて、なかなか風情があります。「お寺裏踏切」と勝手に命名したくなるような…。踏切脇にある消火栓とホース格納箱もポイントが高いです

中塩田駅~塩田町駅③

上田行きの1000系電車がやって来ました

中塩田駅~塩田町駅④

近くにあるもう一つの踏切。こちらはお寺の横側に向かっているので「お寺横踏切」になるでしょうか。それにしても、このあたりはいろいろと絵になる風景が多くて嬉しくなります

中塩田駅~塩田町駅⑤

今度は別所温泉行きの6000系「さなだどりーむ号」がやって来ました

中塩田駅~塩田町駅⑥

その先の線路がカーブしている場所にある2つの踏切

中塩田駅~塩田町駅⑦

振り返るとこんな感じ。いいカーブだなぁ

中塩田駅~塩田町駅⑧

踏切の先では道路と線路が反発するように別方向に曲がっています。家並や背後の山の形も含め、意図せず全体がシンメトリー構図みたいになってしまっているところが面白いですね

 

中野駅~舞田駅

中野駅~舞田駅①以前は周囲を木々に覆われて独特な雰囲気のあった中野駅も、現在はスッキリとした外観に

中野駅~舞田駅②

別の日にこの駅で下車したところ、ホーム正面の田んぼで凧揚げしている人たちがいました(正月だったので)。私も子供の頃はよく自作した凧を近所の田んぼで揚げていたものです

中野駅~舞田駅③

中野駅の近くにあるお気に入りのスポット。お地蔵様や石灯籠にクヌギの木、線路と踏切、そしてその背景に広がる田園風景と霞みつつ重なり合う遠方の山々がとても絵になるんです

中野駅~舞田駅④

手前の仏様は組まれている印を見るに大日如来かな?大日如来の石仏って珍しい気がします

中野駅~舞田駅⑤

1000系の「自然と友だち1号」がやって来ました。ここは撮影ポイントとして知られた場所らしく、たとえばこちらの方のページにも石仏を前景にした丸窓電車の写真があります

中野駅~舞田駅⑥

踏切の向こう側は一面の田園地帯。中央奥に見える手塚地区は「手塚」という名前の由来となった場所とされており、あの漫画家の手塚治虫のご先祖もこの土地と関係があるのだとか

中野駅~舞田駅⑦

この先は八木沢駅まで田んぼの中を一直線に進み、そこからやや左にカーブしながら最後の40パーミルの勾配区間を駆け上がります。左奥に見える低い尾根の裏側あたりが別所温泉

 

舞田駅

舞田駅①

舞田駅は田んぼの真ん中にポツンとある不思議な駅。周辺に集落などがあるわけでもなく、何もない場所に忽然と置かれた駅、といった印象は昔から変わりません(以前よりは近隣に民家も増えたようですが)。ただ、この駅はとあるCMの舞台となったことで有名なんです

マルシンハンバーグのCM。かなり古いものではありますが、その耳に残るフレーズと共に記憶されている方も多いのではないでしょうか。このCMの冒頭に登場しているのが舞田駅なんですね。残念ながら現在は待合室が味気のない建物に変わってしまいましたけど(私はあの素朴な雰囲気が本当に好きでした…)、駅周辺の様子は今でもさほど変わっていません

舞田駅②前回、別所線が登場している映画として『男はつらいよ 寅次郎純情詩集(1976年)』をご紹介しましたが、実はその9年後に公開された『男はつらいよ 寅次郎恋愛塾(1985年)』でもこの舞田駅が登場しています(冒頭の夢から覚めるシーン)。物語の舞台となるのは長崎と秋田なのですが、それとは全く関係のないこの駅がわざわざロケ地に選ばれたのも、やはりその雰囲気の良さが理由であったかと思われます(架線昇圧が目前に迫っていたのも一因かな)


ところで、別所線にはジブリ映画『千と千尋の神隠し』のモデルになっているのではないかという俗説があるのだそうです。私が長々と説明するのもなんですので、ご興味がある方はこちらをご参照下さい。要約をすると、物語の後半で千尋が銭婆に会うために列車に乗って「6番目の駅」で降りるという場面があるのですが、「湯屋の最寄り駅=別所温泉駅」だと仮定をすると、そこから6番目の駅は「下之郷駅=生島足島神社」となります。この神社の祭神である生島神と足島神は二柱で一対の神様とされているため、湯婆婆と銭婆の関係とも符合するのではないか、とのこと(銭婆が「あたしたち二人で一人前なのに」という台詞を言う場面もあります)。宮崎監督自身も上田や生島足島神社に関してはかなりの知識があるそうで、塩田平はまた『龍の子太郎(小泉小太郎)』という龍伝説でもよく知られた地域。

とまあ、少々後付けの理屈みたいに思えなくもない部分もありますが、それなりの説得力はあるような気もします。もちろん、似たような舞台地説は日本全国にたくさんあるらしいのですけど(ちなみに台湾の九份がモデルというのは完全なデマ、というか宣伝文句です)。

ただ、私もこの説を知る以前から『千と千尋の神隠し』には妙な既視感を覚えていた場面があったのは事実で、その場面こそ千尋の乗った列車が途中の駅に停車するシーンなんです。
海原にポツンと浮かんだホームや駅舎のイメージが、田んぼの只中に佇む舞田駅の雰囲気と重なって見えましたし、2両編成の列車も昔の5000系電車とよく似ている気がして…。

舞田駅③
夕刻に舞田駅を発車する列車

あくまで私の願望込みの意見なので話半分にお聞き頂いて結構ですが、舞田駅はこのような鄙びた郷愁を感じさせる素敵な駅だった(悲しいことに過去形)、ということでご理解を。


舞田駅④

舞田駅遠望。冬晴れの日は遠く浅間山まではっきり見えます。少し噴煙が上がっていますね

 

八木沢駅

私が別所線の中で一番好きな駅がこの八木沢駅。当ブログでも何度か写真でご登場を頂いております。簡素な造りでありながらも非常に味のある待合室の建物と、ホームの向かい側に一面の田園風景のパノラマが広がっているそのロケーションの素晴らしさがたまりません。

八木沢駅①八木沢駅のホームと待合室。建物の裏側に入口があり、待合室の中を通ってホーム上に出るようになっています。右側に見える駅名板に描かれているのは、この駅と先ほどの舞田駅がその名前の由来となった『鉄道むすめシリーズ』のキャラクター「八木沢まい」のイラスト(舞田駅の駅名板にも同様の絵が描かれています)。個人的に好きなキャラクターではあるものの、景観的な面で見るとどうしても違和感が…。懐古趣味だと笑われるかもしれませんけど、やはりこういった駅舎には昔ながらの白地に黒文字の駅名板が似合うように思います

八木沢駅パノラマ駅の南側は一面の田園風景。この開放的な環境もまた八木沢駅の魅力を引き立てていますね

独鈷山パノラマ駅前の道路から眺めた独鈷山。塩田平のシンボルであり、その山麓にあった塩田城(写真のほぼ中央付近)は、鎌倉時代に執権北条氏の一族であった塩田北条氏が居館とし、戦国時代には村上義清と武田晴信(信玄)による争奪が繰り返されたことでもよく知られる場所です

八木沢駅②

北側から見た八木沢駅の佇まい

八木沢駅③

以前は待合室の手前側に使われなくなった小さなトイレの小屋があり、その大小二つの建物の並びが非常にリズミカルで良かったのですが、惜しくも数年前に撤去されてしまいました

ありし日の様子
ありし日の様子(2013年撮影)

八木沢駅④

待合室裏側にある入口。この駅もかつては有人駅だった時代があるのだとか

八木沢駅⑤

待合室の床面はホームと同じ高さなので、入口にはこのような階段が設けられています

八木沢駅⑥

ホームに出たところ。その独特な佇まいやロケーションの良さから映像作品に登場する機会も多く、特に写真集や音楽PV(AKB48、いきものがかり、堀江由衣、吉田山田など)の撮影に使われることが多いのは、それだけイメージを刺激する何かがあるからでしょうね

八木沢駅⑦

待合室に貼られていたロケ地マップ。東京からの交通の便の良さ、年間を通しての晴天率の高さ、そして大勢が宿泊可能な温泉地があるため、このあたりは昔から映画のロケ地になることが多かったようです。個人的にはマップの中に小津安二郎監督初のトーキー作品である『一人息子(1936年)』があるのを確認できて嬉しかったですね。映画の冒頭に登場するのが塩田平によく似た風景だったため、以前から上田で撮影されたのでは?と思っていたもので

八木沢駅⑧

夕闇が迫る八木沢駅。これもまた良い雰囲気なんです

聞くところによると、現在の下之郷駅~別所温泉駅には列車の交換施設が存在しないため、別所温泉駅の一つ手前のこの八木沢駅を交換可能駅にする計画があるのだとか。せっかくの素晴らしい景観が損なわれてしまう可能性が高い上に、どさくさに紛れて待合室の建て替えまで行われそうな気もして不安です。地元の人間に限って、こういった建物の魅力や価値を理解していないことが多く(未だに「古い・田舎っぽい=恥かしい」という価値観が残っているため)、「老朽化」だの「耐震性の問題」だのと適当な理由を付けては新しくしようとしたがるんですよね。結果、何の魅力もない平凡な景観が量産されることにもなるわけで…

どうせなら、この駅を改造するよりは現在単式ホームとなっている別所温泉駅を昔のような2面2線に戻す方がコスト的、景観的にも良い方向だと思うのですが、どうなんでしょう?

 

八木沢駅~別所温泉駅

八木沢駅~別所温泉駅①八木沢駅を出た列車は湯川に架かる鉄橋を渡り、別所温泉への最後の急坂を上ります

八木沢駅~別所温泉駅②

鉄橋越しに見る八木沢駅。ここから望遠レンズで駅と電車を狙うのが定番らしいのですが、今回は100mm以上のレンズを所持していなかったため、この画角(85mm)が精一杯

八木沢駅~別所温泉駅③

鉄橋を渡った少し先にあるのが別所線の中でも私が一番好きな踏切で、民家裏へと続く細い小道と、その両側に立つ2本の柿の木が非常に素朴で味のある風景を演出してくれています

不思議な郷愁を感じさせる踏切ですよね

八木沢駅~別所温泉駅⑤

八木沢駅の方向を振り返ったところ。線路がかなりの坂を上っていることが分かりますが、この傾斜は別所温泉駅に近づくにつれてさらに急になります。電車にとっては最後の難関!

 

別所温泉駅

別所温泉駅①

別所温泉駅のホーム。終着駅としての風格が漂う良い駅です

別所温泉駅②

現在は使われていない向かいのホームに立つ駅名板。そうそう、これが一番馴染みますよね

別所温泉駅③

駅舎入口の表示板。こういったものを残してくれているのは嬉しい限り

別所温泉駅④

正月だったので、ホーム横には臨時の改札口が設けられていました

別所温泉駅⑤

駅の構内に保存されている丸窓電車。なにやら不気味なライトアップが…

この場所にはもともと2両の丸窓電車が静態保存されていましたが、片方のモハ5251が存続の危機に陥って(引き取り手がなければ解体すると上田電鉄が宣言。幸いにして近隣のさくら国際高等学校が名乗りを上げ、同高校の敷地内に移設保存されています)、現在ではモハ5252の1両だけに。移設前に私が見た時には塗装がボロボロの状態で、窓ガラスも割れていたりしたため、仕方のない判断だったとは思うものの、中塩田駅で朽ちる寸前まで放置されていたモハ5253の件も含め、扱いがちょっと雑すぎるのが気の毒…。維持費が掛かるのは理解できるけれど、残されたこの1両だけでも大切にしてもらいたいものですね

別所温泉駅⑥

後半は少し苦言めいた文章が多くなってしまいましたが、それも別所線への思いが強ければこそ、ということでどうかご容赦願います。この路線だけが持つ独自の魅力を大切に守り、残していくことこそが最大のセールスポイントになる、というのが私の持論なものですから


というわけで、今回の別所線の沿線撮り歩きはおしまいです。まだまだご紹介できていない区間もありますので、また次に帰省した折にでも撮り歩きの補足をしようと思っています。

ローカル私鉄ならではの長閑な沿線風景や、ノスタルジックな雰囲気たっぷりの古い駅舎、そして「信州の鎌倉」とも呼ばれる塩田平には歴史ある寺社や文化財が数多く残されていて見どころは尽きません。ご興味がありましたら、ぜひ別所線を乗りに訪れてみて下さいね!

 

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