謎多き多様な記号のレンズたち③
「後Kタイプ」のレンズたち
前回からの続きで、これが最終回となります。
「後Kタイプ」との出会いは、ライカLマウントのソリゴール(Soligor 35mm f3.5)が最初でした。このレンズをブログで取り上げた際に私が書いた「田中光学製では?」という推測が元で「後Kタイプ=田中光学製」説が世間に広まってしまったようにも感じていますので(そのモデルに対する考察をしたつもりが、言葉足らずで「後Kタイプ」全体がそうであるかのような印象を与えてしまいました)、底なしの「ソリゴール沼」を供覧している立場の人間の責任としても、もう少しだけ深く掘り下げてあれこれご紹介してみたいと思います。
まず「後Kタイプ」とは何なのかについて簡単に説明をしておきますと、製造番号が4桁の数字で、その後に「K」の記号が入っているモデル全般を指します。この「〇〇〇〇K」という番号の付けられたレンズのブランドは多岐に渡っており、ソリゴールもその中の一つにすぎません。またレンズの種類や形状もバラバラで統一感がなく、とても同一のメーカーが製造したとは思えないようなモデルも存在するため、この「後K」が意味するところは特定の製造メーカーのことではなく、商品の企画や受注、流通等を行った商社か何かを示す記号だったのではないか?と考える人も多いようです(私も本来はこれと同意見なのですが)。
「後Kタイプ」とは4桁の数字の後に「K」の記号が入っているモデル全般を指す…と説明していたのに、いきなりその前提を覆す「3桁+K」ナンバーの個体が出てきました。この個体が存在する以上は「4桁の数字」という条件は絶対的なものとは言えなくなりますが、いままでに私が確認した3桁数字のモデルは上掲写真のシネレンズ1本のみであり、これはかなり例外的な存在ではないかとも思われるんですよね。ですので、厳密に再定義するなら「3桁または4桁の数字」の後に「K」の記号が入っているモデル全般、となるでしょう。
① SOLIGOR 35mm f3.5 (L39)
まず最初にご紹介するのは、やはり因縁浅からぬこのモデルからにしましょう。ソリゴールブランドでは珍しいライカLマウント用レンズで、当ブログで以前に取り上げた際には製造メーカーが分からず、さまざまな情報に右往左往させられました。記事内で追記した通り、現時点の段階ではこのモデルの製造元は田中光学である可能性が高いと私は考えています。
国産のライカLマウントレンズの中では類似するモデルが思い当たらない独特なデザインの鏡胴であり、製造元の特定が非常に難しいです。開放値がf3.5と暗めで、ピントリングも回転ヘリコイド仕様ですから、廉価版の広角レンズとして販売されたモデルなのでしょう。
また、ソリゴール銘ではないものの、同じ「後Kタイプ」で外観のよく似たf2.8モデルが存在するらしく(ACCURAR銘 / こちらのブログで紹介されています)、このレンズも田中光学のタナー(W TANAR 35mm f2.8)からの派生モデルである可能性が高そうです。
私がこのソリゴールレンズが田中光学製ではないかと考える理由については、以前に書いたW タナー35mmf3.5の記事内でも軽く触れているのですが、外観面よりもその光学系に共通性が見られるからなんです。どちらも前群が3枚貼り合わせ、後群が2枚貼り合わせからなる2群5枚のヘラータイプという非常に個性的なレンズ構成で、同時代の国産ライカLマウントレンズではこのソリゴールとタナー以外に採用例を見たことがないんですよね。
タナーの記事でも載せた比較写真の再掲となりますが、両レンズの前群の反射面比較です。
同じく両レンズの後群の反射面比較。前群ともども曲率までよく似ているように見えます。
両レンズで撮影した写真がこちら。光の状態が微妙に異なるため厳密な比較にはなりませんが、前ボケや後ボケ(特に周辺部)に見られるクセなどにはかなり共通性が感じられます。
後述するように、このモデル以外にも田中光学が供給したと思われるソリゴールブランドのレンズが何本か存在するため、全く見当違いな推測ではないと私は考えているのですが…。
② SOLIGOR 28mm f2.8 / Aetna Ultra Terragon 28mm f2.8 (SLR)
一眼レフカメラ用の28mmf2.8モデル。写真左のソリゴール銘を見かける機会が多いですが、それ以外にもさまざまなブランド向けに供給されていたらしく、右に並べた個体は「Aetna Ultra Terragon」銘。「後Kタイプ」ではこの28mmレンズが一番ポピュラーな存在と言えるかもしれません。マウント部分がTマウントによる交換式となっている点や、ミノルタSRマウントにも対応している点などを合わせて考えると、前回ご紹介した「外Kタイプ」の一眼レフ用レンズ群よりも登場時期は若干遅かったのではないかと思われます。
初期のレトロフォーカスタイプの28mmレンズとしては非常にコンパクトな鏡胴にまとめられています。同じスペックの「前Kタイプ」のソリゴールミランダとはコーティングの色こそ違っているものの前玉径・後玉径・反射面などがたいへんよく似ており、もしかすると設計の流用があったのでは?とも考えられます。ただ、実写してみると絞り開放から視野がすっきりしている「前Kタイプ」に対して、こちらの「後Kタイプ」のソリゴールは視野がモヤモヤしてピントを合わせるのに苦労します。コーティングの違いだけでこれだけの差が出るのか、あるいは見た目が似ているだけで全く別モノの光学系なのかは判然としません。
この28mmモデルはさまざまなブランドに供給されていて、製造番号も1000番台から8000番台までの間に幅広く分布が見られます。ソリゴールが4000番台あたりに集中している以外はブランドごとに特に決まった番号帯が割り当てられている様子もないため、千の位の数字が持つ意味はブランドの区別用ではなく、ロット番号みたいなものなのかも。
③ SOLIGOR MIRANDA 35mm f2.8 (m44)
前々回にも取り上げた、ミランダスクリュー(m44)マウントの35mmf2.8モデルです。「ソリゴールミランダ」を名乗ってはいるものの、ミランダ純正扱いのレンズだったかどうかは不明。もしかするとミランダ自身が発注したものではなく、特定の商社が独自に企画したセット販売用、または廉価版の広角レンズなんて可能性も考えられるでしょうか。
同モデルは「CARSEN」「KENGOR」等のブランドへも供給されていたようで、製造番号はソリゴールミランダも含め全てが「後Kタイプ」の1000番台付近に集中しています。
前々回の繰り返しになりますが、このソリゴールミランダとフジタレンズの外観的な類似については触れないわけにはいかないでしょう。パッと見は本当に瓜二つに見えますからね。
ただ、よく観察してみると細かい部分の加工処理には違いが目立ち、繊細で丁寧な仕上げのフジタレンズに対し、ソリゴールミランダはかなり粗めで大味な仕上げのように感じます。
藤田光学製レンズの最大の特徴でもあるプリセット絞りのロック解除用プッシュ式ボタン。このボタンの中心部分がフジタレンズは赤点で統一されているのに対し、「後Kタイプ」はこれまで確認できた全ての個体がマイナスネジとなっている点が興味深いところなんです。絞り環や距離環の数字の書体もそうなんですけど、この「後Kタイプ」の35mmレンズが藤田光学による製造だったとして、なぜ細かいパーツや数字の書体までわざわざ変えてくる必要があったのか?と思うんですよね。製造元がバレないようにしたいのであれば根本的なデザインから変えた方がよっぽど賢明な気もしますし。そんなわけでボタンの頭がマイナスネジのモデルは外観を似せただけの「偽フジタ」に違いない、と思い込んでいたのですが…
④ SIMOR 52mm f3.5 (FUJITA66)
この「後Kタイプ」のフジタ66マウント用モデルの出現により大混乱に陥ります。外観が微妙に異なっているとはいえ、フジタ純正の52mmf3.5(FUJITA 52mm f3.5)とほぼ同形・同スペックのレンズであり、プリセット絞りのボタンの頭がマイナスネジだったり、数字の書体がオリジナルと違う点などは前述のソリゴールミランダとも共通するのですが、このレンズからは作りの粗さは特に感じませんし、コーティングもブルー/パープル系で、淡いアンバー系のソリゴールミランダとはかなり印象が異なります。フジタ66の52mmレンズといえば中判一眼レフ用としては最初期のレトロフォーカスタイプ広角レンズとして知られており、海外ではマウント変換してハッセルブラッド等で使用されることも多かったと聞きます。とはいえ、わざわざそれと同スペックのモデルを外観まで似せて他メーカーが製造する意味があったのかといえば、甚だ疑問なんですよね。考えられる可能性としては、
・海外での売れ筋商品だったため、他社が無断でコピー製造したそっくりさんの模倣品
・藤田光学からの供給が追い付かず、別の光学メーカーで製造されたライセンス生産品
・藤田光学自身が製造したデザイン違いのモデル(最初期のプロトタイプデザイン?)
のいずれかとなるでしょうか。コピー商品説はともかくとして、仮に藤田光学公認の商品であったにしても、なぜ鏡胴の形状から細かなパーツ類に至るまでの一つ一つに微妙な差異が見られるのかが謎すぎるんですよ。以下、オリジナルモデルと並べて比較してみましょう。
写真左が「KALIGAR」ブランドにOEM供給された藤田光学純正の52mmf3.5モデルで、写真右が「後Kタイプ」/「SIMOR」銘の個体となります。全体的にはよく似た印象を受けるものの、細部では各パーツの形状や数字の書体などに違いが見られ、その中でも特に目立つのは「SIMOR」の鏡胴先端部分がオリジナルとは違う二段構造となっている点です。
レンズ径にも若干の違いがありそうなので実測してみたところ、前玉は「SIMOR」の方が約1mmほど径が大きく、逆に後玉は「KALIGAR」の方が約3mmほど大きいという結果でした。外観だけでなく光学系も微妙に異なる可能性があり、謎はますます深まるばかり。
プリセット絞りボタンの頭はやはり純正モデルが赤点で、「後Kタイプ」がマイナスネジ。形状が似ていると思ったピントリングも、よく見たらローレットのパターンが真逆でした。
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全体的な印象は「そっくり」なのに、じっくり観察してみると細部がことごとく違っていて同一な部分が見当たらない…。なんとも奇妙な存在のレンズとしか言いようがありません。
いったいどんな理由や目的で製造されたモデルなのか?これを生産したのは藤田光学だったのかそれとも別のメーカーか?それから「後Kタイプ」のソリゴールミランダとの直接的な関係性は?等々、考えれば考えるほど泥沼に嵌っていきます。ソリゴールミランダといえばもう一つ気になる「後Kタイプ」のモデルがあるので、それを以下にご紹介しておきます。
⑤ TELESAR 35mm f2.8 (m42)
「TELESAR」銘の35mmf2.8モデル。プリセット絞り式なのはソリゴールミランダと同様ですが、外観デザインは少しモダンになったというか、垢抜けたような感じもします。
各部の作りや操作感も悪くはなく、1960年代前半あたりの平均的な一眼レフカメラ用の交換レンズ、といった印象です。ただ、このレンズを眺めているとなんとなく既視感が…。
その既視感の正体はソリゴールミランダを隣に並べてみると分かります。そう、外観面こそモダンになってはいるけれど、光学系自体は同じものなのでは?と思えてしまうんですよ。
両レンズの前群と後群の反射面を比較したもの。コーティングの色といい、反射像といい、どちらも非常によく似ていますよね。また、ネームリングの書体やレンズ後端部の構造にも共通性が見られることから、この2つのモデルは同じメーカーによって製造された可能性が高いのではないでしょうか。実際、撮り比べてみても見分けがつかないくらいにそっくりな写りをするんですが、残念ながら性能面ではお世辞にも優れているとは言い難く、先述した28mmレンズのようなモヤモヤ感こそないものの、絞り開放ではコントラストが低い上に画面がフワフワしてピントを合わせるのが大変です。こういった描写性能の面では開放から芯のある写りをするフジタレンズとの間に大きな差があり、鏡胴の作りの粗さといった点も含めて私が藤田光学製説を積極的に推す気になれない最大の要因であったりもするのです。
「TELESAR」の他には「KENGOR」銘のモデルも確認しています。これまで見た限りでは製造番号はブランド銘に関係なく「後Kタイプ」の2000番台に集中しているようです。
「後K」が示すものとは?
さて、ここまでご紹介してきたレンズたちに共通する「後K」の記号には、いったいどんな意味が隠されているのでしょう?冒頭でも述べましたが、私はこの記号を「製造メーカーを示す記号」ではなく「商品の企画や受注、流通等を行った商社か何かを示す記号」だったのではないかと考えています。そういった製造メーカー以外の視点から眺めてみた時に最初に頭に浮かんだのは、⑤の「TELESAR」とよく似た外観デザインで「DIANON」ブランドのレンズシリーズを展開していた樫村洋行の頭文字の「K」ではないか?というものでした。ただ、「DIANON」銘のレンズはデザインが統一されていて、それ以外のバリエーションが確認できませんし、製造番号にも「K」の記号は見られません。では、他に何か手掛かりはないものかと調べていたところ、こちらの方のブログ記事に「後Kタイプ」モデルの鏡胴に「KOEISHA Co.Ltd」と表記されている個体があり、これは「光影社」という商社のことを指すのではないか?と書かれていることを知り、これが「後K」の記号に直接結びつく情報なのかもしれないと思うようになりました。この商社についての詳細は全く不明なものの、他に有力な資料も見当たらないため、現時点ではこの「光影社」が関わった製品に記された記号が「後K」だったのではないか、という仮説を私も推させていただきたいと思います。
「後Tタイプ」と「TNナンバー」のレンズたち
今回の特集の最後に取り上げるのは、「後Tタイプ」と「TNタイプ」のレンズたちです。
4桁の数字の後に「T」の記号が付いたモデルと、「T」と「N」を重ねて表記した記号が付けられたモデル(場所は番号の頭だったり後方の少し離れた場所だったり)があります。
いずれもレンジファインダーカメラ向けの135mmf3.5というスペックのレンズで、ライカL(L39)、ニコンS、コンタックスRFマウントモデルが用意されたようです。
これらのオリジナルと考えられるのが…
この田中光学のテレ・タナー13.5cmf3.5(TELE-TANAR 13.5cm f3.5)となります。
前回も書きましたが、ニコンSマウント/コンタックスRFマウント用の交換レンズを製造した光学メーカーの数は非常に少なく、広角・望遠レンズに限れば三協光機(コムラー)、協栄光学(エイコール)、田中光学(タナー)のほぼ3社に絞られるでしょう。その中でもレンズの外観の類似性や「T」という記号から連想されるメーカーとして筆頭に挙げられるのが田中光学のタナーレンズなんですね。「いや、外観はそこまで似ていないのでは?」と思われるかもしれませんが、このレンズには鏡胴デザインの異なるモデルが存在しまして、
こちらがその外観違いのモデルとなります。配色は異なるものの、絞り環やピントリングに施されたローレットのパターンからは、ソリゴールレンズにより近い印象を受けますよね。
2種類の光学系?
今回、タナーを含む4本のレンズの撮影をしていたところ、後玉径が大きくマウントに近い場所に位置するモデルと、後玉径が小さくてマウントから奥まった場所に位置するモデルの2種類が存在することに気付きました。タナーと「後Tタイプ」の2本が後玉径の大きい方で、「TNタイプ」の2本はどちらも後玉径が小さい方に属します。つまり「後Tタイプ」モデルに関してはタナーと同一の光学系だと思われるものの、「TNタイプ」の2本は全く別の光学系らしいのです。私はてっきり「TN」とは「田(TA)中(NAKA)」の略号だとばかり思っていたんですよ。藤田光学の「FT=藤(FUJI)田(TA)」みたいな例もありますしね。ただ、そういった考え方は早計で、もしかするとT社とN社による合作(例えば鏡胴部分は田中光学が担当して、光学系部分はN社が担当したとか?)を意味しているのではないか…なんて可能性すらありえそうな気がしてきました。もちろん「TN」も田中光学のことを指す記号であり、単に光学設計を変更しただけなのかもしれませんけど。
⑥ 【後Tタイプ】Soligor 135mm f3.5 (CONTAX-RF)
おそらく光学系がタナーと同一ではないかと思われるモデル。製造番号の後に「T」の記号がある点では「後Kタイプ」といっしょですが、ここでの「T」は製造メーカーを示す記号ではないかと私は考えています。というのも、製造番号の後に「T」の記号があるレンズはこれ以外に1つしか見たことがなく、それもまた田中光学製らしいからなんです(後述)。
銘板の「Soligor」表記はこの「後Tタイプ」モデルのみが筆記体風のロゴとなっています。
⑦ 【TNタイプ】Soligor 135mm f3.5 (CONTAX-RF)
後玉径が小さく、マウント側から見ると奥まった場所に位置するタイプ。光学設計が違っていることは鏡胴の長さにも表れていて、「後Tタイプ」の個体と並べてみるとこちらの方が全長が若干長めとなっています。TとNを重ねて表記した独特な記号についてはこの個体の場合は製造番号の後方のやや離れた位置に記されていますが、次にご紹介するこれより若い番号の個体では4桁の製造番号の頭に置かれています。1000番台と2000番台の間で何らかの変化があったのか?「後Tタイプ」からの番号の連続性は?…謎が多すぎますね。
⑧ 【TNタイプ】Soligor 135mm f3.5 (L39)
同じく「TNタイプ」のライカLマウント個体です。上のコンタックスRFマウント個体と並べてみると、マウント部周辺のデザインや距離計連動の仕組みなどは当然異なるものの、それ以外はほぼ同一のモデルのように見えます(ピントリングの回転方向は逆ですけど)。
製造番号は「後Tタイプ」が1000番台の前半(1000~1400あたり)に集中しており、「TNタイプ」は数が少なめで1900~2100の間くらいに分布が見られます。
⑨ 【後Tタイプ】Soligor 35mm f2.8 (CONTAX-RF)
「後Tタイプ」の35mmf2.8モデル。ニコンS/コンタックスRFマウント用の個体しか見たことがなく、ライカLマウント用が存在するのかどうかは不明です。「Soligor」のロゴは筆記体風で、製造番号は「58」から始まる5桁の数字の後ろに「T」が付きます。「58」の数字は製造年(1958?)を示しているのかもしれませんね。4桁ナンバーの135mmモデルとは製造番号の系列こそ異なっているものの、おそらくほぼ同時期くらいに供給されたのではないかと思われます。この35mmレンズのオリジナルは一目瞭然で、
こちらのタナー(W TANAR 35mm f2.8)の銘板部分を交換しただけではないでしょうか。
他の135mmモデルなどは鏡胴デザインがわざわざソリゴール専用と思われるものに変更されていたりするのに、このレンズだけなぜそのままの姿で流用されたのかは謎ですよね。しかも「58」から始まる5桁のナンバーというのも、もともとはタナーレンズに使われていた製造番号がそのまま継続されたもので、唯一の変更点は数字の後ろに付けられた「T」の記号だけだったりします。まあ、こういった簡略的な移植モデルが存在しているおかげで「後Tタイプ」の製造元が田中光学ではないかという仮説が強力に補強されるわけですが。
最後に
今回の特集『初期ミランダ用ソリゴールとその周辺』はいかがだったでしょうか?それでも前半は頑張って体系的な分析を私なりにしてみたつもりなのですが、後半の「様々な記号のソリゴール」に至っては、調べれば調べるほどに謎のモデルが出現してきて収拾が付かなくなり、やむを得ず羅列的なご紹介をするので精いっぱいといったありさまでした。最初期に限定したとはいえ、底なしと恐れられる「ソリゴール沼」を甘く見ていたことを反省するとともに、1950年代半ば~1960年代前半あたりにかけての国内の中小光学メーカーのなりふり構わない生存競争の様子が透けて見えてくるようで、なんとも言えない複雑な気分にもなりました。時代の徒花と言ってしまえばそれまでですけど、こういった忘れ去られた名もないレンズたちに少しでも光を当ててみたいというのが当初の動機でもあり、その目的だけはかろうじて達成できたのではないかと思っています。この時代の知られざるレンズはまだまだ山のように存在しているはずなので、情報が集まればまた特集してみたいですね。
今回はご覧いただきどうもありがとうございました。
→序説
→「Y」ナンバーソリゴール編
→「K」ナンバーソリゴール編
→それ以外のさまざまな記号編/前編
→それ以外のさまざまな記号編/中編
光影社については、写真工業の1954年6月号に「光影社の撮影設備と暗室」というタイトルの記事がありますね。
記事本文の内容は見たことがないので分かりませんが、光影社の概要もある程度は記載されているんじゃないでしょうか。