謎多き多様な記号のレンズたち②
「外Kタイプ」と「後Kタイプ」
前回までは初期ミランダ用に限定した範囲内で様々な種類のソリゴールレンズをご紹介してきましたが、今回はそれらと時代的にも記号的にも共通性があると思われる他マウント用のソリゴール、その中でも特に「外Kタイプ」と「後Kタイプ」(どちらも私が勝手に付けた呼称です)という分類に属するレンズを取り上げてみます。これは必ずしもソリゴールだけに限らないお話なのですが、この時代に作られた多様なブランド(主に輸出用)のレンズの中には製造番号の周辺部に「K」という記号の付いたモデルを数多く見かけます。それらをひとまとめに「記号がKだから興和製である」と断定する人たちもいるのだけど、個人的にその意見に対しては強い違和感があり、いろいろな個体を見比べるなどして独自に区分してみた結果が以下に示す「K」の記号の位置に注目をした3タイプの分類となったわけです。
・前Kタイプ:製造番号の頭に「K」の記号。興和製のソリゴールレンズがこれに該当
・外Kタイプ:製造番号から外れた場所に単独で「K」の記号があるタイプ
・後Kタイプ:4桁の製造番号の後に「K」の記号が付いているタイプ
「前Kタイプ」については前々回の特集内でも詳しく語っていますので、今回はそれ以外の2つの「K」ナンバーレンズについて見ていこうと思います。まずは「外Kタイプ」から。
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「外Kタイプ」のレンズたち
ミランダ用標準レンズ
【外Kタイプ】Soligor 55mm f1.8 (m44)
前回もご紹介をしたソリゴール 55mm f1.8です。製造番号の左側の少し離れた場所に「K.」の記号が単独で付けられていて(写真右下)、このような記号表記がされたレンズグループを「外Kタイプ」と呼んでいます。この独立表記の「K.」が意味するのはおそらく製造メーカーのことであり、それはずばり「協栄光学(Kyoei opt.)」の「K」ではないかと私は考えています。その根拠としては、「外Kタイプ」のレンズには必ずそれに対応する協栄光学の「エイコール(Acall)」レンズが存在しているという点が挙げられるからです(といっても、これは以前から囁かれていた通説で、特に目新しい意見ではありません)。
そこで今回は「外Kタイプ」のレンズと、それに対応する「エイコール」レンズを並列的にご紹介することで、私の推す「外Kタイプ=エイコール」説を確認していこうと思います。
一眼レフカメラ用交換レンズ
【外Kタイプ】Soligor / W.TAIKA TERRRAGON 35mm f3.5 (m42)
「外Kタイプ」のレンズの中でも、最も見かける機会の多いのがこの一眼レフ用マウントの35mmレンズでしょうか。ソリゴール以外にもさまざまなブランド向けに供給されていたらしく、写真右の個体は「TAIKA TERRAGON」銘です。この「TAIKA」は泰成光学(後のタムロン)のブランドであったとも聞きますが、このレンズに関してはどうなんでしょう?
細部の仕様は微妙に異なっているものの、構造的には同一のレンズのように感じられます。
【外Kタイプ】VOTAR / BITTCO SUPER VEMAR / W.XETAR 35mm f3.5 (SLR)
それ以外には「VOTAR」「BITTCO SUPER VEMAR」「W.XETAR」なんてモデルもあったようです(所有していないモデルのためWeb上から画像を引用させていただきました)。
…これらのオリジナルモデルが
【エイコール】W.Acall 35mm f3.5 (SLR)
この協栄光学のW.エイコール35mmf3.5ということになるでしょうか。細かな部分に多少の差異はありますが、基本的には銘板が異なるだけの同一レンズのようにも見えます。
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【外Kタイプ】Soligor 135mm f2.8 (m42)
こちらは「外Kタイプ」のソリゴール135mmf2.8です。鏡胴の先端部分がいきなり太くなる独特な形状には少し「頭でっかち」な印象を受けるものの、これこそがこの当時のエイコールの望遠レンズ(一眼レフ用)に特徴的なデザインであり、その外観の共通性が「外Kタイプ」のレンズが協栄光学製ではないかと考えられる根拠の一つとなっています。
【エイコール】Acall 135mm f2.8 (SLR)
こちらがオリジナルと思われるエイコール。協栄光学の製品は三協光機から分裂したという背景もあって外観がコムラーレンズと見分けがつかないくらいにそっくりなモデルも多いのですが、一眼レフカメラ用の望遠レンズに関しては独自性の高いデザインとなっています。
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三協光機と協栄光学
協栄光学というのは謎の多いメーカーで、1958年頃に三協光機から労働争議の末に分裂した会社であることは確かなようなのだけど、その時の様子については昔から出処の不明な噂話が囁かれていて、曰く「分裂組が工場から工作機械を丸ごと運び出してそのまま生産を開始した」とか「仕掛中だった部品を設計図ごと持ち出し、それを組み上げて名前を変えて販売した」云々。これは当時の関係者の証言が口伝てに広まったとも考えられるのですが、なにより外観が瓜二つなコムラーとエイコールの両レンズが存在するという事実がその噂の信憑性をより高めていた気もします。私が知る限りで最も出処のはっきりした関係者の証言は、学研社が1999年に発行した『中古カメラGET!(CAPA4月号臨時増刊)』の「コムラーへの旅」という記事での写真家の三宅岳さんによるアベノン光機への取材です。
アベノン光機は、コムラーレンズ(三協光機から改称)の元社員が設立した会社で、取材に対応した岩田さんはコムラー倒産時には本社製造部次長兼工場長、社長の阿部さん(取材の2年前に他界)は同じく営業部長をされていたとか。記事内ではコムラーの歴史が語られていて、その中では協栄光学の分裂騒動についても簡潔にではありますが触れられています。
昭和33年。これも時代の流れであろうか、労働争議の末、会社が分裂する。何と中間管理職の85㌫が引き抜かれ、新しい会社が作られてしまったのだ。中古カメラ屋のライカマウントレンズコーナーに、よくコムラーそっくりのレンズが出ていることがある。なかでも『エイコール』ブランドのレンズは、よく見るとコムラーそのものなのだ。実は、この引き抜き騒動でできた会社『アール光学』がコムラーレンズそのままに作って売っていたのがこのエイコールだったのだという。このとき、岩田さんはコムラーに残った少数派だったのだ。
「コムラーへの旅」(三宅岳)より引用
あまり具体的な事例については語られていませんし、三協光機側の立場からのみの証言ではあるものの、とにかく大騒動であったことは分かります。この直後から1960年代前半にかけて大口径のコムラーレンズが次々に発売されていったのは、三協光機に残った社員たちが見せた意地だったのでは?…などと考えると感慨深いものがありますよね。「協栄光学」が当初は「アール光学」を名乗っていたというのもこの記事を見るまで知りませんでした。
レンジファインダーカメラ用交換レンズ
【外Kタイプ】W.TELESAR 35mm f3.5 (L39)
国産のライカLマウントレンズが好きな人間が見れば一目で「ダルマ!」とその愛称が出てくるくらいに有名な形をしたレンズです。この個体は「TELESAR」というブランドに供給された「外Kタイプ」になりますが、銘板を隠されたらコムラーかエイコールの2択で悩むところです(上記のような経緯もあって、全く同形のモデルが両方に存在することに…)。
【エイコール】W.Acall 35mm f3.5 (L39)
エイコール版の「ダルマ」です。オリジナルはコムラーで、4群5枚のクセノタータイプを採用するという、小口径の35mmレンズとしては贅沢な設計になっている点が外観以外の特徴と言えるでしょうか(当時の他社モデルは3群4枚のテッサータイプが主流でした)。
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【外Kタイプ】HONOR / TELE ASTRA / SIMOR 135mm f3.5 (L39)
「外Kタイプ」/ライカLマウントの135mmレンズです。「HONOR」というのはあの瑞宝光学のオーナー用の交換レンズということになるのでしょうか?そしてこのモデルだけ「K.」が赤文字になっている点も気になるところ。後述しますが、協栄光学製のレンズは国内カメラメーカーの栗林写真工業(ペトリ)とヤシカ向けにも供給されていたと思われ、それらのレンズには赤文字の「K.C.」という記号が入っているんですね。ひょっとすると赤文字は国内メーカー向けを示す記号だった?などと根拠のない想像をしてみたりして…。
【エイコール】Super-Acall 135mm f3.5 (L39)
こちらもコムラーのそっくりさんで、ライカLマウントのスーパーエイコール135mm。会社が分裂した頃の三協光機はレンズの製造技術が最高水準に達していた時期で、協栄光学がそのクオリティを落とさずに同等レベルでの生産を維持できていたことがうかがえます。ただ、1960年代以降は競合他社との価格競争が激しくなったためか素材や品質は次第に落ちていってしまうんですけどね(これはコムラーレンズにも同様のことが言えますが)。
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【外Kタイプ】TELE ASTRA 135mm f3.5 (Nikon-S)
「外Kタイプ」/ニコンSマウントの135mmレンズ。ライカLマウントの個体は探せばそれなりに出てきますが、ニコンSマウントとなるとこのモデルしか確認できていません。マウント基部以外が黒色に統一されていて、なかなか精悍な印象を受けるレンズですよね。
【エイコール】Acall 135mm f3.5 (Nikon-S)
エイコールにも同型のニコンSマウントモデルがあります。ライカLマウント用とは違ってコムラーではこのデザインのモデルを見たことがないため、一眼レフ用望遠レンズと同様に協栄光学のオリジナルレンズなのかもしれません。個人的に「外Kタイプ=エイコール」説を唱える上でこのニコンSマウントモデルの存在は非常に重要だと考えているのですが…。
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【外Kタイプ】W.ACCURAR 35mm f3.5 (CONTAX-RF)
コンタックスRFマウントの35mmレンズです。製造番号が2桁番台である上にニコンSマウントの「TELE ASTRA」とも30番ほどしか違わず、どちらもかなりの少量生産だったと思われます。この35mmモデルは他に「W.ATCO」というブランドのニコンSマウント個体を何度か見かけたことがあるものの、いずれにせよ珍品の部類に入るレンズでしょう。
おそらく光学系はライカLマウント用と同じものなのでしょうが、「ダルマ」タイプでよく指摘される四隅のケラレがこのモデルで見られないのは、フィルター径が46mmと大きいおかげでしょうか。たいへん渋い描写をするレンズで、個人的にはお気に入りの一本です。
【エイコール】Acall 35mm f3.5 (Nikon-S / Contax-RF)
「W.ACCURAR」のオリジナルと考えられるのがこちらのエイコールモデル。それにしてもなぜこんな使いにくい古風な絞り環配置にしたんでしょうね。見た目のカッコよさ…とか?
当時のカメラ年鑑(日本カメラ社刊)に写真付きで紹介されていたのを発見。上掲の実製品では製造番号が「20」から始まる5桁ナンバーとなっていますが、こちらの掲載写真では「W.ACCURAR」と同じ「588」から始まる6桁ナンバーに見えるのが興味深いところ。
ちなみに「W.ACCURA(ACCURARではない)」銘のダルマタイプも存在します
ニコンSマウントやコンタックスRFマウントの交換レンズを製造した光学会社というのは数が限られていて、国内メーカーでは日本光学、キヤノン(コンタックスRFマウント用の28mmレンズがあります)、帝国光学、富士写真フイルム、三協光機、協栄光学、そして田中光学くらいかと思われます。その中でも距離計連動が複雑な外爪マウントの広角/望遠レンズまで製品化していたレンズ専業メーカーは三協光機、協栄光学、田中光学の3社のみであり、自然と「外Kタイプ」のニコンS/コンタックスRFマウント用レンズの製造元はこの中のどれかに絞られるでしょう。この3社の35mmf3.5というスペックのレンズを見比べてみると、田中光学のレンズ(Tanar 35mm f3.5)は前玉/後玉径が非常に小さいため「W.ACCURAR」のオリジナルモデルとはなりえず、結果として三協光機と協栄光学の「ダルマ」が候補として残ります。そこに先述の「TELE ASTRA」と「エイコール」の関係を加味するなら、やはり最終的な候補は協栄光学になると私は考えますがいかがでしょう?
オリコールとヤシノン
実はエイコール以外にも栗林写真工業(ペトリ/Petri)のオリコール(Orikkor)レンズやヤシカ(Yashica)のヤシノン(Yashinon)レンズに「外Kタイプ」と同形のレンズが存在しており、特にオリコールは重複しているモデルも複数あることから「栗林写真工業が製造したのではないか」という意見もあるようですが、個人的にはレンジファインダーカメラ用レンズの存在も考慮するなら、やはり協栄光学製である可能性の方が高いと思っています。
【オリコール(K.C.)】Petri Orikkor 35mm f3.5 (m42)
オリコール35mmf3.5です。ピントリングがゼブラ柄になっているのがこのオリコールモデルの特徴で、記号が赤色の「K.C.」である点も通常の「外Kタイプ」と異なります。
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【オリコール(K.C.)】Petri Orikkor 105mm f3.5 (m42)
こちらはオリコール105mmf3.5です。やはりピントリングはゼブラ柄になっていて、製造番号から離れた場所に赤色の「K.C.」の記号があります。この個体はm42マウントモデルですが、もしかするとスピゴット式のペトリマウントの個体もあるかもしれません。
【外Kタイプ】Soligor 105mm f3.5 (SLR)
「外Kタイプ」のソリゴール105mmf3.5。ソリゴールブランドに供給されたレンズの外観は基本的に黒色で統一されていたようで、ゼブラ柄の個体はほとんど見かけません。
【エイコール】Acall 105mm f3.5 (SLR)
こちらがオリジナルモデルと考えられるエイコール 105mmf3.5。オールブラックを基本デザインとする一眼レフカメラ用のエイコールレンズとしては珍しく、ピントリングがゼブラ柄になっている点が目を引きます。プリセット絞り周辺の意匠が微妙に異なっている以外はオリコールモデルとそっくりで、同時期に生産された兄弟レンズかもしれませんね。
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【オリコール(K.C.)】Petri Orikkor 135mm f3.5 (m42)
オリコール135mmf3.5です。赤色の「K.C.」記号とゼブラ柄のピントリングは他のモデルと共通していますね。プリセット絞りの開閉環に付けられた緑色のマークもこの世代のオリコールレンズには共通した仕様だったようです。この個体はm42マウントですが、スピゴット式のペトリマウントモデルも確認しており、さらに「K.C.」の記号が「C.C.」になっている個体も見たことがあります。「C.C.」はそれ以降のペトリレンズで共通して使われた記号で、「コンビネーション・コーティング」の略だとも聞いたことがあるため、もしかすると「K.C.」にもコーティングに関する何らかの意味が込められていたのかも?
【スーパーヤシノン(K.C.)】SUPER YASHINON-R 13.5cm f3.5 (Pentamatic)
ヤシカの最初期の一眼レフ用望遠レンズには協栄光学が供給したと思われるモデルが多く、そのバリエーションの豊富さではオリコールを上回っていました。このスーパーヤシノンも細部に独自のデザイン変更が加えられてはいるものの、鏡胴の全体的な特徴や「K.C.」の赤字記号が銘板にある点などから、エイコールの派生モデルの一つであったと考えられます(先端形状がスリムになっているのは、当時のヤシカが各レンズのフィルター径を52mmで統一していたため、それに合わせる必要からデザインが変更されたのかもしれません)。
【エイコール】Acall 135mm f3.5 (m42)
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【スーパーヤシノン(K.C.)】SUPER YASHINON-R 13.5cm f2.8 (Pentamatic)
f3.5モデルと同様に独自のデザイン変更が加えられてはいるものの、前掲のエイコール135mmf2.8がオリジナルと考えて間違いないでしょう。なお、オリコールにはこのf2.8モデルは供給されなかったようで、ペトリの交換レンズ一覧にも載っていません。
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【ペトリ(C.C.)】C.C. Petri 180mm f3.5 (m42)
「オリコール」ではなく「ペトリ」、そして赤字の「K.C.」が「C.C.」となっている個体です。おそらく栗林写真工業が「ペトリカメラ」に社名変更し(1962年)、ブランド銘を「ペトリ」で統一した後に供給されたため、このような表記になったのだと思われます。
【スーパーヤシノン(K.C.)】SUPER YASHINON-R 18cm f3.5 (Pentamatic)
【外Kタイプ】Soligor 180mm f3.5 (SLR)
【エイコール】Acall 180mm f3.5 (SLR)
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【スーパーヤシノン(K.C.)】SUPER YASHINON-R 25cm f4 (Pentamatic)
【エイコール】Acall 250mm f4 (m42)
この250mmレンズもペトリの交換レンズ一覧には載っておらず、ヤシカ向けのみの供給だったようです。協栄光学製のオリコールレンズについては、こちらの海外のフォーラムで一同が勢揃いした姿を拝めますが(貴重な500mmf8レンズも!)、その中に1本だけオリコールではない協栄光学製レンズが混じっていて、スペックは80mmf3.5と地味ではあるものの、このモデルこそが一眼レフ用のエイコールレンズの基本形となったのではないかと思われるんですよね。80mmf3.5は三協光機が初めて製品化した歴史のあるレンズで、協栄光学においても同様に基礎モデルとして位置付けられていたでしょうから。
【エイコール】Acall 80mm f3.5 (EXAKTA)
このレンズの派生モデルというのはまだ見たことがありませんが、絞り環とピントリングの独立性が高く、先端部にある絞り環付近の径が太くなっているデザインが特徴的で、これが一眼レフ用エイコールレンズの基本形になった可能性が高いのでは?と私は考えています。
「外Rタイプ」のレンズ
今回の「外Kタイプ」との直接的な関係は不明ですが、「外Rタイプ」なんてモデルも存在します。協栄光学が三協光機から分裂した当初「アール光学」を名乗っていたという前掲の記事を思い出すと、この「R」が意味するのは…?などと妄想が膨らんだりもしますけど、1960年代中頃のソリゴールレンズには「前Rタイプ」なんてモデルも出現しますので、単に「R」だからという理由で強引に結び付けて考えるのは乱暴すぎるかもしれませんね。
【外Rタイプ】SONNAGAR 35mm f3.5 (m42)
それにしても「SONNAGAR」とはすごいブランド銘です。当時のこういった輸出用OEMレンズには名前をどう読めばいいのかさえ分からないような不思議なブランドが山のようにあって困惑します(今回ご紹介した中にもいくつかありましたよね)。当時、海外に数多く存在した中小の光学機材の販売業者(誌上通販が多かったとか)が既存の商標を避けつつ、かつインパクトのありそうなオリジナルブランドを考えたらこうなってしまった、みたいな場当たり的な命名結果ではなかったかという気もしたりして…(実情は全く不明ですが)。
ちなみにこのレンズにも異名モデルが多数存在しているらしく、こちらの海外のフォーラムでは協栄光学のレンズも含めて様々なブランドの個体が紹介されています。これらのモデルには「外Kタイプ」の他に「前KAタイプ(製造番号の頭にKAの記号)」なども見られ、それが「Kyoei Acall」のことを指すのではないか?といった指摘もされています(別の意見としては、エイコールにそっくりなモデルを供給していたとされる「KAWANON」というブランドの「KA」なのでは?という説もあるようで、こちらもなんだか複雑そうです)。
三協光機への対抗心??
ここからは私の勝手な妄想ですのであまり本気にしないでいただきたいのですが、そもそもなぜ製造番号から外れた場所に単独で「K」の記号が付けられたのか、という疑問に対する仮説でして、それは<三協光機の「S.K.」マークへの対抗心からだったのではないか?>というものなんですね。まあ、実際に対抗心としてだったのかどうかは分かりませんけど、分裂元の会社として強く意識していたことは間違いないはずで、三協光機のトレードマークである「S.K.」よりもシンプルな「K.」の一文字に何らかの意思を込めていたとしたら?
【S.K.ナンバー】TELE-KINEGON 135mm f3.5 (EXAKTA)
とはいえ、実はレンズに限って言えば「S.K.」の記号の付けられた三協光機の製品は意外なほど少なく、私もこれまでに数えるほどしか見たことがありません(単体ファインダーや革ケースにはよく書かれているんですけど)。写真の「TELE-KINEGON」も、製造番号を見る限りではかなりの少量生産であったようにも思えますし。ただ、個人的にこのレンズの外観はとても気に入っていて、プリセット絞りの135mmレンズの中では一番好きかも。
【S.K.ナンバー】HONOR WIDE-ANGLE 35mm f2.8 (L39)
こちらも数の少ない「S.K.」の記号が付いたモデルで、しかもまたもや「HONOR」銘。
前掲の「外Kタイプ」の135mmレンズと共に瑞宝光学のオーナー用の交換レンズだったとすると、三協光機と協栄光学が同じメーカーのカメラにレンズを供給していたことになるわけで、なんだかとてもややこしいことに…。間に挟まれて居心地が悪かったであろう標準レンズ(Honor 50mm f1.9/f2)はいったいどこのメーカーが製造していたんでしょうね?
※※※ 追記 ※※※
※「HONOR」銘の35mmレンズには「外Kタイプ」のf3.5モデルも存在したようです(→こちら)。前期/後期型があるようで、前期型は写真がないものの「ダルマ」タイプと考えられます。また後期型のオールブラックタイプには同型のエイコールモデルが存在しているため(下写真)、どちらも協栄光学製である可能性が高いのではないかと思われます。
※※※ 追記終 ※※※
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「外Kタイプ」についてはもう一つ別の仮説もあり、それは前回も軽く触れた内容ですが、『そもそも当初は「前Kタイプ」であったはずが、興和製レンズ群の登場によってその座を奪われてしまい、製造番号から外れた場所に移動して単独で「K」と表記することになったのではないか?』というものです。これは協栄光学製と思われる「前Kタイプ」のミランダレンズが存在することに発想を得たものですが、まあ、どのみち真相は闇のままでしょう。
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このように、三協光機から分裂した直後~1960年代前半にかけてはレンジファインダーカメラ用や一眼レフカメラ用のエイコールレンズを積極的に展開していた協栄光学ですが、その後の同社の活動については不明な部分が多いみたいですね。「オリジナルブランドからOEM生産に軸足を移していったらしい」なんて記述も見かけますけど、それもまた噂話のレベルで具体的な情報は全く出てきません、結果的にはオリジナルブランドで頑張り続けたコムラー側の勝利であったように思えるものの、そのコムラーレンズ(三協光機から改称)すらも1980年には倒産してしまうのですから歴史というのはなんとも残酷なものです。
…というわけで、思った以上にボリュームが増えてしまったため、残りの「後Kタイプ」についてはまた次回にしたいと思います。なんだか今回はほぼ協栄光学の製品紹介をしただけで終わってしまった感じですけど、これだけ類似している製品の数々をご覧いただけたなら私が推す「外Kタイプ=エイコール」説にもある程度はご共感いただけたかもしれません。
ただ、ここから先はソリゴールの闇がより深まり、謎が謎を呼ぶ混沌の世界となります…。
→序説
→「Y」ナンバーソリゴール編
→「K」ナンバーソリゴール編
→それ以外のさまざまな記号編/前編
→それ以外のさまざまな記号編/後編
コレクションは興味深く、また記事が面白くて楽しく読ませていただきました。
ミランダ研究会様
コメントを頂きありがとうございます。
私がミランダのカメラやレンズに興味を持ち始めてから
何度も貴サイトを拝見し、参考にさせていただきました。
初期のミランダ用のレンズについて語られる際に
ズノーやプロミナー以外は完全に無視されてしまう現状が寂しくて
このような記事を書き始めることとなってしまったわけですが、
コレクターと呼べるほどの種類を所有しているわけでもなく、
まだまだ研究が足りないことを痛感させられております。
不十分な内容かもしれませんが、
お楽しみいただけたのであれば幸いです。