伏見稲荷大社とその周辺
意外と知られていない「お滝」
先日、伏見稲荷の初午大祭に行って参りました。久しぶりにお山巡りもして来ましたので、この機会に私流の「お山案内」をしてみようかと思います。いわゆる観光案内とは少し違いますので、そういった内容をお求めの場合は別のサイトを参照されることをお勧めします。
伏見稲荷大社といえば千本鳥居があまりにも有名ですよね。近年は外国人観光客にも大人気の観光地となり、平日でも大変な賑わいを見せていますが、そのほとんどは本殿~千本鳥居~奥社の間を往復しただけで帰ってしまいます。まあ、奥社から「お山」へ入って一周するとなると2時間くらいは掛かるため時間的に厳しいのかもしれませんし、山登りに向かない服装や履物だからかもしれません。あるいは「お山」という存在自体を認識していない人が多いかとも考えられます。お山巡りコースを歩きながら「これってどこまで続いてるの?」なんて会話をしている人をよく見掛けますからね。さて、そんな観光コースにもなっている「お山」ではありますが、その周辺部に非常に独特かつ濃密な「信仰の場」が広がっていることを知る人は意外と少ないのではないでしょうか。それが「お滝」と呼ばれる場所です。
↑「伏見稲荷周辺お滝場マップ」というのが<Google My Maps>にありましたので、引用させて頂きました。地図中の紫線で示されているのが一般的な「お山巡りコース」であり、周辺一帯に点在している青や赤のマークが「お滝」になります(クリックするとそれぞれの写真が表示されます)。だいたいの位置関係、そしてその数の多さがお分かりでしょうか?
今回ご紹介をするのは上の地図中に赤線で示されたルートで(道順は多少違うのですが)、私は勝手に「伏見稲荷の胎内巡りコース」と呼んでいます。これは稲荷山信仰の中心である一之峰・二之峰・三之峰の山頂直下の谷底を潜るかのように数々の「お滝」が並んでおり、それぞれの滝名が山上の神蹟名と対になっていることがその理由です(一之峰:末広大神⇔末廣瀧|二之峰:青木大神⇔青木ヶ瀧|三ノ峰:白菊大神⇔白菊ノ滝|釼石⇔御釼ノ瀧)。
いや、「胎内巡り」って仏教なのでは?と思われるかもしれませんが、そもそも「お滝」は「行」をする場所であり、修験と深い関係にあります。明治時代に神仏分離で切り離されるまで伏見稲荷では神仏習合が行われており、山中には仏堂が建ち並んでいたと聞きますし、歴史的に弘法大師や東寺とも浅からぬ縁があるわけで(御旅所が東寺のすぐ近くにあるのもこのため)、廃仏毀釈によって「お山」の中からは表面的に消し去られた仏教色が、人目に触れることの少ない周縁部においてこのような形で色濃く残されたとも考えられますよね。
本殿から奥社へ
それでは本殿からスタートしたいと思います。
まず本殿に参拝をしましょう
本殿裏にはこのような場所があります。お山を背にしているのでおそらく遥拝所でしょうか
山の麓の神社にはもともと山上の神蹟、あるいは山そのものを遥拝する性格がありますよね
大人気のスポット、千本鳥居。珍しく記念撮影をしている人がいませんでした
午前中なのでまだ観光客も少ないのかな?こんな絶好のタイミングも生まれます
千本鳥居を抜けると奥社です。ここまで来て帰ってしまう人も多いのではないでしょうか
奥社裏にもこのような場所があります。これは明確に遥拝所ですね
奥社脇にある案内図。これから向かう「お滝」はここには載っていません
ちなみにこちらは御膳谷にあるお山案内図。一番上にお滝コースが描かれています
竹乃下道
奥社左側の鳥居がお山巡りへの入口です。さあ、これからがいよいよ本番!
…なのですが、今回はまっすぐ進まず、先ほどの入口から30mほど入った場所にある
神宝神社への分岐点を右折します。そう、ここがお滝巡りのスタート地点になるのです
このような緩やかな坂道を数分ほど歩くと伏見神寶(神宝)神社に到着します
伏見神寶神社。稲荷山から突出した低い尾根上にあり、古代の遥拝所ともいわれます
その右側を奥に向かっているのが「竹乃下道」と呼ばれる小道で、これを直進します
その名の通り美しい竹林の間を道は進みます。ただ、よく見ると竹に落書きが。う~ん…
ちなみに、この道は「京都一周トレイル」のコースに指定されていて、トレッキング姿の
中高年のグループとよく会います。それ以外では不思議と外国人観光客の姿が多いですね
このあたりが「竹取物語」 の舞台であるという説もあるのだそうです
杉林と竹林の間をどんどん進みます。アップダウンはほとんどありません
途中、左側に小道が分岐している場所があり、これは表参道(?)の新池へと通じています
以前歩いた時には笹が生い茂ったほとんど「けもの道」の状態で、ちょっと怖かったですね
もちろん今回ここは通りませんし、おすすめもしません。整備されていれば便利なんだけど
前方に鳥居が見えてきました。「弘法ヶ瀧」です
弘法ヶ瀧
「弘法」…そう、弘法大師(空海)を祀っているお滝です。
神社に仏僧が!?と驚かれるかもしれませんが、伏見稲荷と弘法大師の関係について考ればそれほど場違いには感じないのも事実。神仏習合の歴史もありますしね。まあ、お大師さんほどの存在なら神格化されていたって全く不思議ではありませんし、違和感もありません。
実はここは私が一番好きな「お滝」です。といいますか、伏見稲荷の中でも最も好きな場所かもしれません。なんというか、神様と仏様がちょうど良いバランスで調和しているように感じて心が落ち着くのです。ただ、あらかじめ知っておいて頂きたいのは、この弘法ヶ瀧もそうですが、これからご紹介するほとんどの「お滝」は伏見稲荷大社が直接管轄していない(つまり正式には伏見稲荷に含まれない)民有地であり、管理も民間の方がされている場所だということです。参拝する際はご迷惑のないよう、節度を守った行動を心掛けましょう。
ここは小さな谷地形となっていますので、お滝の中へは下って入ります
お滝の中。「お塚」が立ち並んで厳粛な雰囲気。水の落ちる音だけが周囲に響きます
右側の建物にお不動さんが祀られています。「お滝」と「不動明王」には密接な関係があり他のお滝でも同様に祀られてはいますが、ここは特に立派です。祭礼の日などには白装束を着た信徒さんたちがこの前で般若心経や不動真言を唱えている姿を目にすることもあります
その奥には弘法大師像とお地蔵様(嬰児を抱いているので水子地蔵?)が祀られています
たくさんの鳥居に囲まれた仏様。ちょっと見慣れない光景です
少し離れて見れば、それほど不自然な感じもしませんね
このようにお大師さんが立派に祀られていて、そのすぐ右側にお滝の「行場」があります
数年ほど前ですが、ここに滝行に訪れたお坊さんの姿を見掛けたことがあります
「先輩僧侶からここのお滝の水が一番良いと聞いたので…」と話されていました
右奥に見えるのがお滝の「行場」です。手前にあるしめ縄より奥には入らないこと!
お地蔵様の脇には石段があり、これを上っていくと別の入口があります
南側の入口。ただし、今回はここからは出ずに「竹乃下道」側の入口まで戻ります
弘法ヶ瀧に貼られていた参拝図です。お滝巡りをする人にとっては非常に便利な地図ですね
英語の補足がありますが、このお滝に来る外国人の割合は高く、日本人よりむしろ多いかも
なお、この参拝図からもお分かりの通り、奥社からこの弘法ヶ瀧へ至るには上でご紹介した「奥社→伏見神寶神社→竹乃下道→弘法ヶ瀧」の他に「奥社→八嶋瀧→命婦瀧→弘法ヶ瀧」という別ルートも存在しますが、今回はより難易度が低い竹乃下道コースを選んでみました
後者のルートを選んだ場合、弘法ヶ瀧へは先ほどの南側の入口から中へ入ることとなります
お滝の中の様子。短い動画ですが雰囲気だけでも
…と、弘法ヶ瀧だけでこんなに書いてしまいました(好きな場所なもので)。この調子では日が暮れるまでにお山の上まで辿り着けませんね。以後はもう少しサクサク進みましょう。
次回へ続きます