産業用レンズで伏見稲荷を撮る / COSMICAR YF5028 50mm f2.8

COSMICAR/PENTAX TV LENS 50mm 1:2.8

 

産業用レンズ

聞き慣れないレンズ名ですよね。それもそのはず、一般的な民生用カメラレンズではなく、工場などで使われることを前提として作られた「産業用レンズ」と呼ばれるものなんです。

そっけない外観
そっけない外観

使用目的が限定されたレンズのため外観も非常にそっけなく、必要最低限の文字がプリントされているのみでピントリングには樹脂パーツはおろかローレットすら刻まれていません。

そのかわり、鏡胴側面には機械の振動などでピントがずれないようにするためのストッパーが装備されていたりします。過酷な環境下で使われることも多いためか、製品に求められる基準は厳しいようで、幅広い動作温度や耐振動性なども考慮して設計されているのだとか。

レンズ後部の突出
レンズ後部の突出

ニコンFマウント/Kマウントの2タイプが用意されていますが(汎用規格なのかな?)、メーカーのサイトを見ると「写真撮影非対応」と書かれています。上の写真のようにレンズ後部が突出しているため、一眼レフカメラのミラーと干渉して装着出来ないことが理由かもしれません。ただ、マウントアダプターを介せばミラーレスカメラには問題なく装着出来るので、写真撮影が「不可能」というわけではありません(あくまでも自己責任ですが…)。

 

フルサイズをカバー

産業用レンズの多くは小さなイメージセンサ用に作られているため(Cマウントが主流)、フルサイズをカバーするものは少ないのですが、ラインセンサカメラ用であるこのレンズは例外的にイメージサイズが45mmと大きく、フルサイズの対角線43mmを内包しています。

ピントはちゃんと無限遠まで出ますし、最短撮影距離は0.25mで1/2倍まで寄れますので、操作感さえ気にしなければ標準マクロレンズとしても使えます。民生用レンズよりも厳しい基準、精度で作られている製品ですので、数値性能的な面については全く問題ありません。というか、描写性などを考慮せず数値性能のみを徹底追求したレンズとも言えるでしょう。

使用例
使用例。なお、下に敷いているのは伏見稲荷の薬力亭さんのオリジナル手拭いです

上の写真は最短距離まで繰り出した状態。さすがにそのままではピント調節が不便なので、「イージーカバー/レンズリム」というピントリングと先端の保護リングがセットになった製品を装着して使っています。それでも構造的にヘリコイドのピッチが粗くて1m~無限遠までの角度が非常に狭いため、近距離以外を撮る際のピント調整には神経を使いますけど。

このレンズ、新品だとそれなりに良いお値段がするようなのですが(まだ現行品)、中古で出ると可哀想になるくらいの価格にしかなりません。私は5,000円ほどで購入しましたが、相場的にはもっと安く手に入ることもあるようです。やや扱い難い面はあるものの、高性能標準マクロレンズとしても使えるので、価格以上の描写力を持つお値打ち品だと思います。

ちなみに私のレンズは「YF5028」というFマウント仕様で(「YK5028」がKマウント)、マウントアダプターを介してSONYα7に装着して使っています。フィルター径は62mmで、絞り羽根は5枚の多角形になります(これが最大のマイナスポイントかもしれませんね)。

 

無機的なレンズを逆利用

産業用レンズに求められるのは、なによりもまず数値性能です。画面の隅々まで高精細かつ均一に解像し、歪曲収差が限りなくゼロに近く、周辺光量の低下がないことが理想とされ、立体感だとかボケ味なんてのは考慮外(トーンの再現性などは重視されると思いますが)。

どこまでも無機的・即物的なレンズであり、そういった点でかなり尖った存在なのは確かでしょう。最近の写真レンズの異様に優等生的な性能バランスや、人工的なまでに整いすぎたボケ味に違和感を感じている私としては、別の意味で突き抜けた性能を持つ産業用レンズにむしろ興味が惹かれたりするのです(天邪鬼な性格なもので…)。そこでふと思ったのが、「この即物的なレンズで情感たっぷりの光景を撮ったらいったいどんな描写をするのか?」という素朴な疑問。無感情の、醒めた視線で対象を捉えるような効果があるのでしょうか。

そんな疑問を解決すべく、伏見稲荷に行く機会にこのレンズを持参してみました。伏見稲荷については書きたいことが山のようにあるのですが、長くなるので今回は省略するとして、これまで雰囲気をバッチリ写してくれるであろうレンズを持って行っては、毎回いま一つの結果に終わってしまう経験上、今回は思い切って正反対の性格のレンズにしてみたのです。

 

伏見稲荷にて/カメラ:SONYα7

※画像右下のルーペマークをクリックすると、合焦部分の拡大画像が表示されます。
※撮影時の設定、データの処理等についてはこちらをご参照下さい。

絞り:開放

合焦部分の拡大画像まず竹林で撮った写真から。絞りは開放。合焦部にはごく淡いフレアが掛かっていますね。ハイライトはやや粘りが足りないでしょうか?でも、そのかわり暗部は締まりすぎずに良い感じです。思ったほどはコントラストも高くなくて…この写り、個人的には案外好きかも。

 

絞り:開放

合焦部分の拡大画像引き続き竹林にて。こちらも絞り開放。開放からバリバリの解像感かと思いきや、それほどでもないようです。拡大画像には部分的に偽色の発生が見えますが、これくらいは仕方ないレベルでしょうか。後ボケは玉ボケが出やすく、ザワザワとした印象。硬めのボケですね。

 

絞り:開放

合焦部分の拡大画像こういった写りにはゾクッとさせられるものがあります。ありのままの光景をストレートに捉えただけなのですが、無駄な味付けがない分、素材そのものの凄味が際立つというか…。開放からこれだけ写るのですからなかなかの実力です。ピントはちょっと前ピンでしたね。

 

絞り:f4

合焦部分の拡大画像

絞りはf4、一段絞っています。後ボケのザワザワ感はこれだけでもかなり軽減されます。ただ、この場面では目立ちませんが、絞り羽根の形状による派手な五角形のボケが出やすくなるので、出来る限り開放で撮り切ってしまいたいです。ギリギリで粘る暗部も見どころ。

 

絞り:開放

合焦部分の拡大画像絞り開放。逆光でも撮ってみましたが、さすがにこの程度なら悪影響はほとんど出ません。

 

絞り:開放

合焦部分の拡大画像絞り開放。無機質描写のレンズだけに、金属の被写体との相性は良いですね。後ボケの硬いレンズは前ボケが柔らかいと言われますが、このレンズも前ボケはクセがなくて自然です。

 

絞り:f4

合焦部分の拡大画像絞りはf4。どうやらこのレンズが得意とするのは光がフラットで低コントラストの被写体のようです。この妙に生々しくもリアルな描写は、なかなかどうして魅力的だと思います。

 

絞り:開放

合焦部分の拡大画像絞り開放。こちらも光がフラットで低コントラストの条件。やや後ボケがザワザワしかけていますし、奥に見える白線が二線ボケっぽくなっていますが、個人的には許容範囲内です。

 

…いかがでしたでしょうか?写真撮影用のレンズではないので、ところどころに粗い部分はあるものの、その誇張のないストレートすぎる描写により、逆に伏見稲荷の持つただならぬ雰囲気が浮かび上がって来たかのようにも思います。なんとも不思議なものですね。特に、フラットな光、低コントラストというこのレンズの得意条件で撮られた写真には遠慮のない生々しさ、リアル感があって、これに見合った被写体さえ選べば想像以上の潜在能力を発揮してくれそうな気もします。産業用レンズもなかなか奥の深い世界のようで…(同じラインセンサカメラ用のKOWA製レンズなども使ってみたいのですが、未だ入手ができません)。

それではまた次回。

国産レンズ

2件のコメント

    1. 元旋盤工様

      このレンズの開発に携われた方からコメントを頂けるとは恐縮の至りです。

      やはり近接撮影時の性能を重視した設計なのでしょうか?
      最近では主に自宅でのテーブルフォト用のレンズとして使っております。

      数は少ないものの、ヤフオク!などで定期的に見掛けたりもするため、
      入手についてはそれほど難しくないかと思われます。

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