三協光機 / KOMURA- f=105mm 1:2
大口径シリーズの一本
三協光機が1960年代に発売した大口径レンズシリーズの中の一本です。当時はこれ以外にも 80mm f1.8/85mm f1.4/100mm f1.8/135mm f2/135mm f2.3 など非常にハイスペックな中望遠レンズ群が製品化されており、レンズ専業メーカーである三協光機が自社の技術力をアピールする狙いもあって、これらの製品開発を積極的に行っていたものと考えられます。
しかし、このような挑戦的なスペックで開発された大口径シリーズも商業的には全く振るわなかったようで、現在の中古市場ではほとんど姿を見かけない稀少レンズとなっています。いずれも他のメーカーとは一味違った描写をする面白いレンズばかりなのですが、国内での人気はあまりなく、むしろ大口径コムラーは海外の方で高い評価を受けているようですね。
いかにも大口径レンズ然とした外観をしており、正面から見ると前玉がフィルター枠の内側ギリギリいっぱいまで詰まっています。この個体はM42マウント用で、他に各種一眼レフマウントやライカLマウント用などもありました。絞りはプリセット式でf2~f16まで等間隔のクリック付き、羽根は12枚。最短撮影距離は1.5mなのであまり寄れません。
基本的なデザインはプリセット絞り式のレンズによく見られるごくシンプルなものですが、前玉が大きいため先端がややラッパ状に広がっている姿がなんともグラマラスに見えます。
距離環や絞り環の表示の視認性の高さ、また操作感の良さもコムラーレンズの長所ですね。
レンズ構成は4群5枚のエルノスタータイプで、2群目が貼り合わせになっています。同じ時期に製造された一段暗いf2.8のレンズ(KOMURA- 105mm f2.8)にもこれとよく似た光学系が採用されており、さらにこのf2とf2.8の後を受け継ぐ形で登場したf2.5のコムラー(KOMURA 105mm f2.5 ※この頃から「KOMURA–」の表記が「KOMURA」へと統一されたようです)もまたエルノスタータイプ。特にf2とその後継玉であるf2.5とはレンズ構成がほぼ同一と言えるくらいに酷似しており、優秀なf2の光学設計はそのままに生産性の向上とコストダウンが図られた製品がf2.5ではなかったかとも考えられます。
上図に青色で示したのがf2のコムラー、赤色で示したのがf2.5のコムラー。こうして重ねてみるとその同一性は明らかですよね。ということは、f2付近での開放描写さえ求めなければ、f2.5のレンズでも理論上はほぼ同等の写りが得られることになる…のかな?
専用フードが手に入らなかったので、フィルター径が同じ58mmであるコムラーのズームレンズ用のフードで代用しています。ちょっと大柄すぎて収納性は悪いけれど、この時代のフードは内面反射防止のための植毛が内側に施されていて実用性は非常に高いんですよね。
ベッサフレックスTMに装着してみました。スペックの割には意外と小柄なレンズですね。ブラックのカメラボディとの組み合わせだと、全体が引き締まって精悍な印象を受けます。
描写テスト
1:遠景を絞り開放とf5.6で
絞り開放。画面の周辺部付近では結像の甘さが目立ち、若干の減光も見られます。中心部はそれなりに解像しており、全体的に淡いライトトーンの写りとなっている点が印象的です。
絞りはf5.6。中心部の解像度がかなり高くなって、画面周辺部分もほぼ安定します。ただコントラストはそれほど上がらず、淡い色調にもあまり変化は見られないように思います。
2:中距離の被写体を撮り比べ
絞り開放。解像感はやはり少し甘め。光量が多い場面では軽快な色再現をするようです。
絞りはf5.6。絞っても硬くはならず、全体の軽やかなトーンにも変化はないようです。
3:近距離の被写体での撮り比べ
絞り開放。後ボケは周辺部が少し流れるものの、それ以外は特にクセもなく自然で穏やか。
絞りはf4。少し絞ると周辺部の流れもなくなり、落ち着きのある整った写りとなります。
4:ピント位置によるボケの変化
絞り開放でピントの位置を変化させてみました。このカットでは龍神像に合わせています。
同じ状況で今度はピントを手前の柄杓に移してみました。やはりボケは安定していますね。
コムラーで撮ってみる/カメラ:SONYα7
※画像右下のルーペマークをクリックすると、合焦部分の拡大画像が表示されます。
※撮影時の設定、データの処理等についてはこちらをご参照下さい。
開放時の遠景はやはり周辺部が甘いですね。ただ、ピントをもう少し手前に置くと…
30mほど先にピントを合わせています。本来の後ボケと開放時の周辺の甘さ、そして淡いフレアが混ざり合って、背景が不思議なベールに覆われたような独特の調子となっています
この描写もまた独特ですね。画面がモヤモヤする一歩手前の絶妙なバランスだと思います
フレアが出やすい条件ほど背景のベール効果も強まるみたいですね
川面や護岸ブロックの滲みがたまりませんね
このレンズを使用してまず最初に感じたのは「発色が軽やか」だということ。単に色乗りが浅いというよりは、明度の高い色再現と言うのが正しいでしょうか。その重すぎない発色のおかげか、古い大口径レンズにありがちなモヤモヤ描写は寸前のところで回避してくれますし、陰鬱になりそうな場面でもドロドロさせずにあっさりと切り取ってくれたりもします。
もう一つ気が付いたのは、絞り開放時にピントを少し遠めに合わせた時の不思議な後ボケ。背景に紗がかかるというか、ベールに覆われたような独特な写りになるのがなんとも印象的です。少し絞った時の穏やかで安定した描写や自然でクセのないボケなども魅力的ですが、やはり大口径レンズは開放時に見せる独自の個性を味わうのが何よりも楽しいんですよね。
織物提供:小岩井紬工房
初めて記事を読ませていただきました。
京都市右京区に住む小山田春樹です。
私は、中学生時代から一眼レフカメラを使い始めて、これまでに約50年様々なカメラとレンズを使ってきました。
私が初めて使ったカメラは、ペトリV6です。
レンズでは、コムラーのズームレンズを愛用していた時期があります。
コムラーは、たしか三協光機というメーカーで、プリセット絞りの時代からかなり豊富なラインナップを持っていたように記憶しています。
100㎜F2のレンズは、カメラ雑誌の広告で見た時に、前玉の大きなレンズだなと感じましたが、どんな描写をするのかは知りませんでした。
作例を拝見すると、上品な発色の清涼感のある描写をするので魅力的なレンズだなと思いました。
デジタルカメラでオールドレンズを使って撮影するのは面白いですね。
記事を楽しみにしております。
これからもよろしくお願いいたします。
小山田春樹様
コメントを頂きありがとうございます。
私は年齢的にコムラーレンズの現役時代を知らないのですが、
やはりその価格性能比の良さからか愛用されていた方は多かったようですね。
レンズ専業メーカーの製品でしたので、カメラメーカーの純正品に比べると
どうしても一段格下の二級品という扱いを受けがちではあったらしいのですけれど、
安易な人真似には頼らない独自の設計思想で製品開発を行っていたからでしょうか、
当時としても非常に尖ったスペックのレンズが多くて、つい使ってみたくなってしまいます。
私はなぜかこういった国産の中小メーカーのレンズの魅力に惹かれるものがあり、
コムラーレンズについてもまだ何種類かを所有しておりますので、
掲載時期こそ未定ではあるものの、またいずれ記事にしたいと思っております。
拙いブログではありますが、今後もご覧を頂けると幸いです。