謎のレンズシリーズ その③ / メプロゼニトン MEPRO ZENITON 135mm f2.8

MEPROZENIT / MEPRO ZENITON 1:2.8 f=135mm

 

メプロゼニトン!

なんだかすごい名前のレンズです。恐竜映画か怪獣映画にでも出て来そうですよね。まあ、ドイツ製レンズなどを見ると「テレイスカロン」とか「ウルトラリサゴン」とか「スーパーダイナレックス」なんてもっと強そうなラスボスみたいな名前が並んでいたりしますけど。

このレンズは「メプロゼニット」というソ連製の一眼レフカメラ用に供給された交換レンズになります。ではソビエト産レンズなのかというとそうではなく、実は日本製なんですね。

「メプロゼニット」は1970年代の初め頃に明貿産業(後のメイボーオプテル)という会社がソ連から輸入、スーパーのダイエー系列で「格安一眼レフ」として販売されたカメラです。オリジナルの機種名は「ゼニットBゼニットE」で、頭の「メプロ」はおそらく明貿産業のブランド名ではないかと思われます。当時の国産一眼レフカメラで最も安い価格帯だった製品のさらに半額という破格で販売されたものの、結果的にはそれほど売れなかったとか。

このメプロゼニットに標準レンズとしてセット販売されたのは「メプロコミナー(MEPRO KOMINAR 55mm f2.8)」という日東光学製のレンズ。なぜゼニット用に作られたソ連製のレンズをそのまま輸入せず国産品に変更したのかは謎ですが、どちらにしろ値段が値段ですから、恐ろしいまでに簡潔な(悪く言えば安っぽい)構造の標準レンズとなっていました。

そして、そのメプロゼニットの交換レンズとして販売されたのがこのメプロゼニトンです。

外観
外観

135mmレンズとしては非常にコンパクトで、f2.8なら最小クラスかもしれません。マウントはM42(シルバーの部品を外すとTマウントにもなります)、プリセット絞り、フィルター径は55mm、フード内蔵です。ピント調節はレンズ先端部(写真の右半分)が回転ヘリコイドになっており、まさかの前玉回転式か?と思わせつつも、ちゃんとマウント付近にある後玉が連動して繰り出されるという意外に凝った仕組みなので驚きます。鏡胴に「PAT. PEND.(特許出願中)」と書かれているのは、このヘリコイド連動機構に関係したものかと。最短撮影距離は2.2mと全く寄れません。これは小型望遠レンズの宿命かな…。

メプロコミナーとの比較
メプロコミナーとの比較

標準レンズのメプロコミナーと並べてみます。こうすると大きく見えるかもしれませんが、そもそもメプロコミナー自体が非常に小型のレンズなので、あくまで相対的なものですね。

ところで、今回これを「謎」のレンズとして紹介しているのは、その製造元に若干の疑問があるからです。一般的には標準レンズがコミナーであるため、このメプロゼニトンも同様に日東光学製のはずだと言われているのですが、コミナー好きの人間としてはその安直すぎる判断にはやや違和感も感じます(実際に日東光学製だったらそれはそれで嬉しいけれど)。

まずレンズの外観がかなり違いますし(メプロコミナーが日東光学の標準的なデザイン)、コミナーの135mmとしてはf3.5が有名なものの、f2.8というと1980年代のフジカAXシリーズ用のレンズ(X-KOMINAR 135mm f2.8)くらいしか思い浮かばないのです。廉価に販売することが前提のレンズをわざわざ新設計で作ったとも思えませんし…(普通は既存の製品の流用で済ませるところでしょう)。あるいは何か実験的な要素があったとか?

プリセット絞り
プリセット絞り

絞り機構はメプロゼニトンもメプロコミナーも同じ仕様で、マウント基部に不等間隔の絞りリング、前後して「C⇔O」の開閉リングが並んでいます。ただ、リングの並びが逆なのはまだ許せるとして、絞りの開閉方向までが正反対というのはさすがにいかがなものかと…。とても同時販売されていた同じカメラ用のレンズとは思えないちぐはぐさです。ちなみに、右側のメプロコミナーの絞りリングの向きが日東光学のレンズの標準的な方向となります。

コミナー135mmf3.5との比較
コミナー135mmf3.5との比較

コミナーの135mmと並べてみました。f2.8とf3.5なので太さは違いますが、全長は同じくらい。メプロゼニトンの方がモダンなデザインですね(プリセット絞りだけど)。

MEPRO」という名前のレンズをWEB検索すると、少数ながらもヒットはあります。35mmf3.5/135mmf3.5/300mmf5.6/400mmf6.3/500mmf8(屈折とミラーの2タイプ)/750mmf11(ミラー)、2xと3xのテレコン、今回の135mmf2.8と同一のデザインで「MEPRO」単独表記のものも見ました。

これらは外観もスペックもコミナーレンズとはほとんど共通性が見られないため、おそらく別の光学メーカーのOEM商品なのだと思われます。だとするなら、このメプロゼニトンも「メプロゼニット用レンズ」と限定して考えるから日東光学製が有力視されるのであって、「メプロブランドのレンズの1本」として見れば他の可能性も十分にありえるんですよね。

コミナーは供給先によって「リコーコミナー」とか「マミヤコミナー」などと名乗ることがあり、標準レンズの「メプロコミナー」もメプロに供給されたコミナーレンズであることを意味します。要するに「メプロコミナー=コミナー」ではあるけれど「メプロ=コミナー」とは限らないわけで、メプロゼニトンという名前が日東光学製を示す根拠にはなりません。

個人的には、Tマウントであることを考慮するとトキナー(東京光器製)あたりが正体なのでは?などと勝手な想像をしていますが、ともかく出自が謎めいたレンズなのは確かです。

使用例
使用例

M42マウントということで、ベッサフレックスTMに装着してみました。ちょっと頼りにならなさそうな内蔵フードではありますが、引き出した状態でもこの大きさということは、やはり非常にコンパクトなサイズだといえるでしょう。ミラーレスカメラで使用する際にはプリセット絞りであることもデメリットにはなりませんし、携帯性は抜群のレンズですね。

 

メプロゼニトンで紅葉を撮る/カメラ:SONYα7

※画像右下のルーペマークをクリックすると、合焦部分の拡大画像が表示されます。
※撮影時の設定、データの処理等についてはこちらをご参照下さい。

絞り:開放

合焦部分の拡大画像絞り開放。後ボケが少しグルグルとしています。細かいパターンが連続するザワザワとした背景を違和感なくボカすというのはレンズにとってかなり厳しい要求ですので、この程度は大目に見る必要があるかと。開放ではコントラスト・解像度が低くて眠い印象を受けます。

 

絞り:f5.6

合焦部分の拡大画像絞りはf5.6。少し絞ると画面が締まります。解像度はさほど上がらないものの、ボケはクセもなくなり自然な感じ。淡白な描写になりそうな場面でしたが、意外と色は乗ります。

 

絞り:f5.6

合焦部分の拡大画像絞りはf5.6。トーン再現はやや苦手でしょうか。色乗りが良いだけに、ベッタリとした写りになってしまいました。ハイライトも飛び気味。ただし奥のボケの雰囲気は良いです。

 

絞り:f5.6

合焦部分の拡大画像絞りはf5.6。合焦部が背景から浮かび上がらず、どこか平面的に見えてしまう不思議な描写です。これは色乗りが良い上に形も崩れない重めのボケ味が原因なのかもしれません。

 

絞り:f5.6

合焦部分の拡大画像絞りはf5.6。前ボケは特にクセがなく、後ボケはフワッというよりトロンとした感じ。

 

絞り:開放

合焦部分の拡大画像絞り開放。平面的な写りというとあまり好まれない描写傾向の一つですが、こんな写真だとそれがプラスに作用すると思います。不必要に合焦部が強調されずに背景と調和するので。

 

絞り:開放

合焦部分の拡大画像絞り開放。この写真もそうですが、立体感の弱い面的な絵作りはちょっと日本画っぽい?

 

絞り:f4

合焦部分の拡大画像絞りはf4。前ボケ+合焦部+後ボケという重層的な構成でも、やはりどこか平面的です。

 

絞り:f4

合焦部分の拡大画像絞りはf4。「モノ」よりは全体の「情感」を撮るのに向いているレンズかもしれません。

 

絞り:開放

合焦部分の拡大画像絞り開放。欲を言うなら、もう少しだけ合焦部が立ってくれると扱いやすいんですけどね。

 

普段は100mm以上の望遠レンズを使う機会がほとんどないため、今回の撮影はちょっと苦戦しました。比較材料も少ないので描写についてあれこれ言える立場ではありませんが、そんな私でも分かる程度にはこのレンズも個性的であるようです。濃い目の発色に平面的な写り、なんとなくペトリレンズの描写傾向に似ている部分もあるかな~と思ってもみたり。
安価でコンパクトな望遠レンズですから、いろいろと設計上の制約はあったのでしょうが、結果的にこのような優等生レンズには出せない独特の持ち味を獲得しているという意味では歓迎すべきことなのかもしれません。いささか汎用性の低い個性ではありますけれども…。

国産レンズ

織物提供:小岩井紬工房

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